異人たちとの夏、もしくは惑星ソラリス
異人たちとの夏、もしくは惑星ソラリス
部屋に戻ると「どこへ行ってたの。お友だち待たせて」
台所でバタバタしながら母親がいう。
「お母さん。生きてたの?」
「なに寝ぼけたこと言ってるの。ご飯作ったからね。手が真っ黒じゃない、ちゃんと洗いなさい」
仕事の合間にご飯を作りに戻ってくるのが母の日課。料理があっという間で、いつも手抜きだと思う。
母親に手首を持ち上げられる。手があたたかい。
「お母さん、生きてたんだ」
「ばかなこと言ってないでお友だち待たせちゃだめよ。仕事に戻るからね」
ホッとして部屋に戻るとそのだがいた。
いつもひょうひょうとしてるそのだは数少ない友人。
「勝手にレコード聞いてたよ。おばさん仕事大変だね」
「そのだ...生きてたの」
「何、おかしなこと言ってんだよ」そのだが笑った。
冗談だったのか、冗談にしてはたちが悪すぎる。
「飯できてるっていうから、その前に銭湯でも行こうか」
「そういえばジェイソンいなかったよ」
「最近は勝手に出かけるようになったんだよ。拾ったばかりの頃は臆病で部屋から出られなかったのにね」
「いいことだよ」
そんな話をしながら蝉時雨の道を銭湯へ向かう。すっかり真夏。
「ここの湯、熱いんだけど、もう一つの銭湯より広いから好きなんだ」
「ほんとに熱い。入っていられない」
誰かの使っているシャンプーの甘い匂いが漂ってくる。
夕方の銭湯はお年寄りが多い。
見回すと近所のおじさんがいた。おじさんは半身が動かなくなって足を引きずってる。
自分では背中洗えないだろうからお風呂で会ったら背中を流してあげなさいって、いつも母親が言ってた。
どうしようかなと思いながら、ふと気が付く。
おじさんは首を吊って死んでしまったはず。
そのだも、母親も死んだはず、ジェイソンは20年以上前にいなくなった。

目が覚めて、いつの間にかいなくなってしまった人が多いことを知らされた気がしてぼんやりする。
セミの声もシャンプーの匂いもお湯の熱さもリアルだったのに夢は夢。
夢の中の方が現実的に感じて、もう一度目を閉じたら寝てしまった。

「寝すぎよ」母親に起こされる。
「これ夢だよね。お母さん死んだんだよね。。。ちょっと手を出して」
母親の手をとる。温かい。でも夢なんだよね。
「けいちゃんのお父さんがお風呂にいたよ」
「背中洗ってあげた」
「あいさつだけしかしなかった」
「恥ずかしがらずに洗ってあげないとだめよ」
「お母さん、仕事戻らなくていいの」
「ほんと急がないと」
でも、夢だよねって夢の中で思う。

何度か寝ては醒めて、不思議なくらい同じ夢の続きを見た。
胡蝶の夢のよう、どちらが現実かわからなくなる。
どちらか選ぶなら夢にはいったまま、一生目覚めなくてもいいかなと思ってしまう。

コメント

moco
moco
2017年8月7日13:52

はじめまして。こんにちは。最近お気に入りにさせてもらった者です。
夢の話、いいなぁと思いました。哀しいけど、どこか温かくて、よかったです。

BOTETO
2017年8月14日5:07

はじめまして。
コメントと登録ありがとうございました。
気が付くと危ないことを書いてることありますが、よろしくお願いします。